赤茶色のお湯に入りたい。

温泉には、赤茶色や黄金色に濁ったお湯があります。ところが、こうしたお湯の多くは、地中から湧き出した瞬間には透明です。色は、湧いてから湯船に届くまでのあいだに生まれています。
今回は、鉄を含むお湯を源泉かけ流しで使う3軒を、青森・長野・兵庫から選びました。日本海の波打ち際の露天風呂、城下町の平屋の宿、鎌倉時代から続く湯の町の宿。お湯の色がどう生まれるのかを知っておくと、湯口と湯船の色の違いにも目が向きます。
赤茶色のお湯は、なぜ透明から色づくのか
鉄分を含んだ温泉は、空気に触れると酸化がはじまり、水酸化第二鉄に変わって赤褐色の沈殿物を生じます。日本温泉協会が温泉の色の解説で示している仕組みです。地中では空気に触れないため、鉄はお湯に溶けたまま上がってきます。地上で酸素と出会ったところで、目に見える粒に変わるわけです。鉄が錆びて赤茶色になるのと、よく似た変化です。
変化には時間がかかります。その変化を目に見える形で並べているのが、神戸市の公式観光サイトです。有馬温泉の金泉を汲んで5分後、1時間後、3時間後と比べると、透明なお湯が黒く濁り、やがて赤くなっていきます。湧いてから時間がたつほど、色は濃くなっていきます。
ただし、鉄を含めば必ず赤くなるわけではありません。ただし協会の解説には、酸性が強いお湯では鉄が沈殿しないという例外も書かれています。赤褐色になるのは主に微弱酸性から中性、アルカリ性のお湯で、鉄分に加えて塩分や炭酸を含むお湯に多いといいます。今回の3軒も、どれも塩分の濃い塩化物泉です。
1. 黄金崎不老ふ死温泉
日本海の波打ち際に、湯船が置かれています。黄金崎不老ふ死温泉の海辺の露天風呂は、高波の日には海水が入り込むため閉めなければならないほど、海のすぐそばにあります。宿の説明もこうです。「湧き出た瞬間は透明ですが、空気と触れることで酸化し赤褐色になる」。泉質は含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉、源泉の温度は52.2℃です。
宿がいちばんにすすめる時間帯は夕暮れです。空も海も、すべての景色が黄金色に染まる時間です。赤褐色のお湯に、日本海に沈む夕陽の色が重なる時間です。照明がないため入れるのは日の出から日没までで、混浴と女性専用の2つの湯船があり、湯あみ着を着て入ることもできます。
お湯は温度調整のために加水していますが、源泉かけ流しです。源泉ランクは3です。高波や雷雨の日は露天風呂に入れず、冬は湯温が上がらずに混浴だけになる日もあります。夏は海岸にアブやブヨが出ます。日帰りの受付は15時30分までなので、夕暮れの湯船に浸かるなら泊まりです。
2. 黄金の湯 松代荘
毎分740リットル。長野市松代町の松代荘では、掘削した井戸からお湯が自らの力で噴き出しています。お湯は「涌いたときは無色ですが、鉄分を多く含むため、酸素と反応して美しい黄金色に変化」します。2019年の温泉分析書にも、湧き出した場所では「ほとんど無色澄明」だったお湯が、試験室では「黄白濁」を呈したと記録されています。
泉質名はナトリウム・カルシウム-塩化物温泉で、名前に「鉄」は付きませんが、分析書には1kgあたり19.5mgの鉄(II)イオンが記録されています。溶けている成分の総量は1kgあたり16,130mg。分析書の泉温は43.8℃です。加熱も加水も循環ろ過もしない、100%のかけ流しです。源泉ランクは3です。
真田十万石の城下町に建つ、武家屋敷風の平屋の宿です。大浴場は男湯を「殿湯」、女湯を「姫湯」と呼び、どちらにも内湯と露天風呂があります。泊まれば、宿泊者専用の浴場「福寿」と「長寿」にも入れて、長寿には壺風呂もあります。日帰り入浴は10時から22時まで、長野ICから車で約5分です。
3. 有馬温泉 御所坊
「透明が酸化し淡褐色に変化」。有馬温泉の御所坊は、お湯の性状をこう記しています。お湯は御所泉源と妬泉源を混ぜたもので、湧出口の温度は95℃。泉質は含鉄-ナトリウム-塩化物強塩温泉です。有馬のお湯には、国が療養泉として指定している9つの成分のうち7種類が含まれている。御所坊が温泉の案内で真っ先に挙げる点です。源泉ランクは4です。
宿は鎌倉時代に「湯口屋」として創業したと伝えています。谷崎潤一郎も泊まり、小説『猫と庄造と二人のをんな』に御所坊の名を書きました。大浴場は、宿の言葉では「お顔が見える半混浴」。四季折々の風景を眺めながら湯浴みができます。
不老ふ死温泉の赤褐色、松代荘の黄金色に対して、御所坊は「淡褐色」。同じように鉄を含むお湯でも、宿がお湯の色に選ぶ言葉は少しずつ違います。泊まれば、清掃時間を除いて15時から翌朝9時30分まで入れます。日帰り入浴は11時から14時までで、月曜は定休日です。
まとめ
波打ち際で夕陽を待つ不老ふ死温泉、城下町で自噴のお湯に浸かる松代荘、鎌倉時代から続く湯の町の御所坊。3軒とも、お湯は地中では透明で、空気に触れてから色づきます。赤褐色、黄金色、淡褐色と、宿がお湯の色に選ぶ言葉も三者三様です。
湯船で見ている色は、湧いてから湯船に届くまでの時間の表れでもあります。湯口からそそぐお湯と、湯船にたまったお湯の色を見比べてみてください。